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第五章 江戸の発展と地網の起こり

5−1:浦賀にも干鰯問屋が出来て流通が便利に

 関東に旅網した紀州海民たちは、干し場に困るほど大量の鰯を捕り、ホシカを製造しました。しかし、江戸時代の初期には、 関東ではまだホシカを肥料として使うことはありませんでした。

前にお話したように はじめは綿の肥料として使われ、次第に染料の藍や、夜間照明用に燃やす油をとる菜種栽培に、さらにはミカンの木の肥料として、もっぱら関西方面で使われていたのです。

古い本の中には、関東に旅網した紀州漁民は、作ったホシカを国に帰るとき船に積んで持ち帰った、と書いてあるものもありますが、鰯の量は帰りの船に全部積み込めるほどの少量ではなかったのです。

ごく初期はともかく、彼等は早い時期から網付の商人を伴ってくるようになりました。彼等は鰯を捕る仕事と、捕った鰯をホシカにして運んで売る仕事を、分業 でするほうが効率が良く、儲けも大きいことを知っていました。海の総合職の彼等にとっては分業は仲間内の当たり前のことだったのです。


江戸湾と浦賀の図
 漁民たちが捕った鰯は、陸揚げされるとすぐに網つき商人の手に渡り、商人たちは人を雇って鰯をホシカにして、それを中間の中継地まで運んで倉庫に保管しておき、大阪行きの廻船に託して大阪のホシカ問屋に運びました。

その中継地は三浦半島の浦賀でした。浦賀は江戸湾(東京湾)への進入口に位置し、古来北条氏の水軍の本拠地でした。湊口から奥まで二二〇〇メートル、幅は二百b以上、深さは一番奥でも四メートル以上あって、山に囲まれた良港でした。 

 天正一八年(一五一八年)徳川家康が江戸に入国すると、浦賀にほど近い三崎を徳川水軍の本拠地にし、江戸湾出入の船の監視と徴税(ちょうぜい)を行なわせました。

 浦賀のすぐ傍の徳川水軍には紀州、伊勢、志摩出身者も多く、治安も良くて、浦賀の紀州商人にとっては安心できる中継地でした。

一六〇三年(慶長八年)家康が江戸に幕府(武家政府)を開いてからは、江戸は天下第一の政治都市を目指して急成長をし始め、人口も急増し始めました。

 そのため生活必要物資が大量に必要になり、大阪から江戸に向かう廻船は莫大な数になりました。

 江戸は消費地で、生産地ではなかったので、それらの帰り船は多くは空船でしたから、、浦賀に寄ってホシカを積んで大阪の問屋に運ぶのを、大歓迎して引き受けただろうと考えられます。

このように浦賀は大阪への中継基地としての条件を十分に備えていました。

 大量のホシカが浦賀に集まるようになると、商人のなかの資本金の有る者のなかから、自ら干鰯問屋になって網付き商人から干鰯を買い集め、江戸から大阪に上る廻船と契約して大阪に送る集荷問屋が現れました。

 一六四二年(寛永一九年)彼らは三崎番所奉行から問屋仲間の結成を認められました。問屋仲間は仲間同士でいろいろな約束を決めて助け合い、仲間以外の新規の問屋の営業を許さない特権を与えられていました。 

綿栽培の肥料としての干鰯や〆粕の需要は、流通経路が確立するにしたがって、ますます増えていきました。更に年とともに利用範囲も広がり、たんぼの稲の肥 料としてもたくさん使われるようになりました。それで、浦賀のホシカ問屋は房総(千葉県)日立(茨木)方面で生産されたホシカや〆粕、魚油などを一手に買 取り、莫大な利益を上げるようになりました。

 一方、網元達の収入は問屋に比べると不安定でした。豊漁が続くときは大変な儲けになりますが、鰯漁は毎年安定しているわけでは有りません。

 鰯漁は最近の研究者の説によると、気候や寒暖流の流路変化など環境の影響で、数十年から百年の不定期周期で豊凶を繰り返すといわれます。

不漁が続くと網元は無収入になります。
それでも網元の出費は続きます。
網元はいつ何時でも船を出せるように、漁夫に賃金を払い、食べさせて雇っておかなければなりません。
彼等の賃金、食料費、網や船の修理費用、浜借り料、各種の税金などで、年間軽く一〇〇両はかかりました。 (江戸時代は)インフレが続いたので、時期によって大きく違いますが、元禄の頃で一両は約五万円弱に当たります)そのため資金の乏しい網もとの中には 浦賀干鰯問屋から事業資金を借金するものもでてきました。

 前借した網元は干鰯で借金を返すことになります。
豊漁になれば返せますが、不漁だとさらに借金を重ねなければなりません。
そうなると網元の立場は大変に弱くなります。
 
やがて近世の半ば以後になると不漁が続き、資金の前借が重なって、網元は資金を借りた問屋だけに製品の納入するように強制されるようになり、さらには、製品も安く買い叩かれるようになり、問屋が網元を支配するようになりました。
   
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